研究内容

植物の根圏は、地球上で最も微生物が豊富な生態系であり、多様な植物種と共生して土壌中の養分を根に供給する菌根菌などの有用な微生物が存在しています。植物-微生物の共生関係の理解が進めば、地球規模での持続可能な食料供給や環境負荷軽減への大きな貢献が期待できます。本チームは、植物-微生物共生研究に資する根圏微生物および実験植物のリソース開発と、これを活用した植物?微生物共生の実験系の確立、更には農業現場への応用に資する情報整備を行います。内外の研究コミュニティと緊密に連携することにより、共生現象の実態解明と産業利用につながる世界トップクラスの成果をめざします。


微小液滴による根圏微生物の新規培養技術の開発
地球上にはおよそ1兆種の微生物が存在し、99%以上は難培養性で培養することができません。進化の過程において微生物同士は複雑なネットワークを構築しており、お互いに関係し合う共生関係を形成していると考えられます。そのため個々の微生物間の共生関係を包括的に理解しなければ、培養はもちろん微生物ネットワークの全容を理解することはできません。そこで本研究テーマでは、マイクロ流路システムを用いて作成した微小液滴の内側で、微生物を共生関係のまま培養することを目指しています。微小液滴は直径数数十ミクロンであり、マイクロ流路によって一分間に数百から数千個の生産が可能です。合計で100万を超える数で実験ができるため、沢山のサンプルを扱うことができます。この微小液滴内に微生物を封入し、培養することで、いままでは知り得なかったどの微生物がどの微生物と共生関係であるかを伺い知ることができると考えています。さらには難培養微生物の新規培養技術として本研究分野に大きく貢献できると期待しています。

アーバスキュラー菌根菌のリソース研究
植物-微生物共生で最も一般的な共生形態の一つであるアーバスキュラー菌根(AM)の研究に近年注目が集まっております。個々のAM菌は宿主植物によって異なる影響を与えているため、植物とAM菌の共生を理解する上で、それらの共生マッチングのパターンを明らかにすることは必要不可欠です。しかし現在のAM菌の研究は特定のAM菌系統のみを対象としており、圃場や自然環境における植物とAM菌の共生の全容解明にはまだ不十分であります。そこで本研究テーマでは、維管束植物の主要な宿主植物を対象にAM菌を単離・培養し、宿主植物との共生効果を網羅的に比較することで、植物とAM菌のマッチングのパターンを明らかにすることを試みています。具体的には、古典的な単離・培養法で使われるネギ属(Allium sp.)、ソルガム(Sorghum bicolor)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)に加えて、近年開発された新規単離・培養法で使われているフタバネゼニゴケ(Marchantia paleacea subsp. diptera)を対象に、単離・培養できる全AM菌を次世代シーケンサーにより網羅的に検出します。さらに単離したAM菌を用いて、それぞれの宿主植物への接種試験により共生効果を評価することで、宿主植物とAM菌のマッチングのパターンを明らかにしていきます。以上の研究を通して、植物-AM菌共生における基本メカニズムの解明を目指すとともに、植物-微生物共生研究に資するAM菌のリソース開発を行います。

植物-微生物共生におけるモデル実験系の確立
近年、動物腸内のプロバイオティクス(宿主に有益な効果を与える生きた微生物)が注目されているように、植物科学においても植物-微生物共生が注目され始めています。しかし植物-微生物共生のモデル実験系はマメ科植物や大型穀物に限られており、共生の分子メカニズムの実態解明や農業分野への応用を目指した大規模かつ詳細な実験を進めるにはまだ不十分です。そこで本研究テーマでは、モデル植物シロイヌナズナと同程度に栽培や分子遺伝学解析が容易で、共生現象の代表であるAM菌との共生が解析可能なミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)を新しいモデル実験系として確立し、今までの実験系ではできなかったスケールの研究を提案します。まず植物と微生物が相互作用する時空間別にマルチオミクス解析を行うことで、生物間で生じる物質交換やシグナル伝達のダイナミクスを代謝物および遺伝子レベルで明らかにします。つづいて植物変異体に対して順遺伝学的スクリーニングを行うことにより、共生における植物の遺伝的メカニズムの全体像を抽出します。さらにAM菌の単離株に対して本モデル実験系で評価することにより、AM菌が示す共生効果の多様性を探索します。以上により、植物-微生物共生分野の研究を促進する基盤を整備するとともに、植物-微生物共生の分子メカニズムの全容に迫りたいと考えています。

次世代型農業を目指したフィールドオミクス研究
人類は緑の革命により人口増加を支える食料供給を実現した一方、農地への過剰な施肥により環境汚染や土壌の劣化を招いてしまいました。そこで本研究テーマでは、植物微生物土壌の農業環境のバランスを整え、持続的な作物生産を可能とする環境共存型の新しい農業を日本発で実現させるプロジェクトを提案します。同一試験圃場に様々な資材を投入して土壌環境に変化を持たせ、その圃場で栽培した作物や土壌のサンプルからマルチオミクス解析により植物-微生物-土壌に関する農業環境データを取得し、ビッグデータを利用する統合インフォマティクス解析により各階層での単独解析では見えない有用な情報を抽出します。すなわち、複数のバイオテジタル化技術を並列化させ、これまでの土壌診断評価を大幅に発展させ、先入観なく要因解明に迫る新しい評価軸となる「農業環境エンジニアリングシステム」を構築することを計画しております。以上の研究により、環境負荷低減と農作物の高付加価値化を実現する技術開発を促進し、さらに農家が生産手法を自由に選択できるプラットフォームを整備した次世代の農業を目指したいと考えています。
*本プロジェクトはSIP戦略的イノベーション創造プログラム(スマートバイオ産業・農業基盤技術)の支援を得て遂行します。