第二回植物微生物シンバイオロジー協議会シンポジウム「植物微生物×オミクス」を開催しました

植物微生物シンバオロジー協議会にて、第二回植物微生物シンバイオロジー協議会シンポジウム「植物微生物×オミクス」をオンライン開催しました。

【プログラム】
13:30-13:35 開会の挨拶(理化学研究所 環境資源科学研究所センター・白須賢 副センター長)
13:35-14:05 【将来ビジョン】(東京大学・岩田洋佳 准教授)
14:05-14:25 【最先端研究】(京都大学・杉山暁史 准教授)
14:25-14:45 【最先端研究】(早稲田大学・細川正人 准教授)
14:45-15:00 休憩
15:00-15:30 【活動紹介】(農水省土づくりコンソーシアム・大倉一樹 課長)
15:30-15:50 【技術紹介】(株式会社生物技研・中野江一郎 代表取締役)
15:50-16:25 総合討論
16:25-16:30 閉会の挨拶(株式会社 前川総合研究所・篠崎聡 代表取締役)

【総合討論】

市橋:東大・岩田先生から、育種分野とマイクロバイオームを含む栽培分野を融合させるビジョンが示された。京大・杉山先生からマイクロバイオーム解析から有用微生物が単離された実学に近いケーススタディが示された。さらに早大・細川先生からシングルゲノミクス、生物技研・中野さんからロングリードについて、現行のマイクロバイオーム技術を凌駕する最先端技術が紹介された。農水省・大倉さんから日本の農業現場の現状と国の取り組み、土壌の生物性評価としてマイクロバイオーム等の解析が注目されていることが示された。以上のように、オミクスの情報から高解像度な情報が得られ、社会実装への期待感はある。しかし実際は課題が多くあるので、まだ実用化に至っていない。一方でアメリカはすでにマイクロバイオームでの土壌診断が行われ、ゲノム情報から新しい有用微生物を単離してシードコーティングして販売するといった種苗会社もある。日本の良さや期待感もあるなか、日本では今後どのような課題があるか?
岩田:データ解析をするためのリテラシーをあげていくことが重要。データ科学の単なるユーザーでなく、積極的にコミットしていくことが有意義である。
市橋:情報リテラシーを高めるために何が足りないか?仕組み上なのか、個人レベルの意識の問題なのか。
岩崎:両方わかる人材が必要だと言われ続けてきて、徐々に変わり始めている。多くの大学で情報系の研究を行うラボが増えてきた。
岩田:ネットで調べればデータ科学の技術が簡単に使えるようになり、浸透してきた。一方で、データ基盤のようなものがすごく強いわけではないので、そのあたりもやっていかなければならない。
市橋:COP15では遺伝資源のデジタル配列情報利用から得られる利益の国際的な配分について議論されているので、今後注目していくべき。
白須:細川先生のbitBiome社のように、ベンチャー企業がリードして、学生が興味を持ち、就職先があるということは大きい。一方で、日本では土壌微生物の確保がまだ弱い。杉山先生のように特定の微生物を取りに行くという方法論は成功しているが、海外のベンチャー企業では、大規模な微生物の確保とスクリーニングにより商品にしている。日本はその部分がまだ弱いし、一大学や研究機関が担当するのも厳しい。そのため、旧来の方法論ではなく、土壌やドロップレットとして微生物を集団で確保するなどの別次元の微生物保存の方向性が出てくると良いと思う。加えて分離した微生物集団から欲しい微生物だけを取り出す技術などをゲノム情報を利用した形で開発していく必要がある。
細川:微生物を単離して保存するという方法では限界があるので、微生物集団として保管するやり方や、管理制御する部分に新しいブレイクスルーが必要。新しいアイデアを出していきたい。
齋藤:農水省では過去にeDNAプロジェクトが実施され、現在はSIPやムーンショットで大規模にデータ取得がされている。そこでは、DNA等のオミクスデータとともに、いかに栽培関連のメタデータをセットで揃えてくるかが重要であり、土壌生物性の評価をどのように栽培の場面につなげていくか課題。新しい発想で切り込んでくれる人が、実際に農業現場で栽培している経験者と一緒に仕事をすることが必要。
南澤:土壌微生物の多様性の高さは常々指摘されてきた。ドロップレットの中で数回細胞分裂させた後に2つに分けて、1つは保存、1つはシーケンス…という技術ができると破壊的。また土壌微生物学の最大の弱点は「モノの流れ」を捉えられていないこと。農業は生産物をつくるプロセスであり、そこでは元素の流れがある。海外では成果が出やすい微生物の単離を大規模に進めているが、急がば回れで「モノの流れ」を捉えていくべきではないか。またオミクス研究をしているつもりが、いつの間にか一つの菌と一つの植物の相互作用になり、従来の研究の延長線をただオミクスを使ってやっているだけになってしまう。そのギャップが解けない理由として「モノの流れ」が分かっていないことがあり、「モノの流れ」を相互作用のサイエンスに結合できれば鬼に金棒。さいごに、社会実装は重要。科学者として世の中の人に役立つものを出していく努力が必要。本気でやって、国民に説明していかなければならない。
野村:微生物は共存する他個体や生育する環境によって個性が変わるため、「並び」が重要。そのため、対象から切り出さずに、なるべく対象のままを見ることが必要で、多様なイメージング技術を利用している。スマホにレーザーを搭載して土壌をリアルタイムにモニタリングすることは絵空事ではない。日本の農業現場の人たちにとって、土壌データが収益に直結しないと興味が示さないだろう。また現在では、短期的な収益だけでなく持続的な収益が着目されているため、気象条件をふまえた土壌分析、その土壌に合った作物のシミュレーション、病害が起きるリスク予測など、サイエンスに基づいた技術開発が大切。若手研究者用のグラント・ACT-X「環境とバイオテクノロジー」を進めており、研究費支援に加えて、アドバイザーと密に意見交換ができるヴァーチャルラボを構築している。
ぜひ多数の募集を:https://www.jst.go.jp/kisoken/act-x/research_area/ongoing/bunya2020-2.html
有江:農水省ではeDNAプロジェクトから続けて、ヘソディム、AIを活用した土壌病害診断技術開発のプロジェクトを実施しており、土壌の性状から病害の発生しやすさを高い確度で予測できる。WAGRIを介してオープンになる予定なので、横のつながりを構築してもらいたい。また従来は有用微生物の選抜が主流であるが、微生物の育種も必要。ここ20年で生物農薬の出荷額は1%ほどで、有機農業や特別栽培の農家に依存した販路のため、より良い処理方法や菌株の発見が必要。
二瓶:窒素の持続可能な利用について栽培法のみでは限界があり、微生物利用に期待。
倉田:16S rRNA遺伝子解析だけで微生物を十分に分類できるか気がかりだったが、最先端技術で解消されて嬉しく思う。一方で、解析した情報が蓄積しても、実際に土壌に適用する方策がまだ見えない。重要な微生物を単離・培養して接種するだけでは問題が解決しない。ましてや土壌微生物の場合は単離・培養できるのは極めて少ないので現実的ではない。微生物を土壌に適用する方法の確立が最も重要。微生物集団として活用する際の方法論も考えると良い。
篠崎:2年前に20名ほどからスタートして今は240名を超える参加者になった。他にはない幅広い分野の方々が集まっていただいたのが本協議会の特徴の一つであり、幅広い分野を横断でできる研究開発につなげたい。農水省みどりの食料システム戦略にはチャレンジできる課題が多数ある。コンソーシアムを組みながら研究開発を続けられる仕組みを作りたい。化学肥料を減らす等の環境問題と収量を確保することのバランスは難しいが不可能ではない。最先端技術で見える化した後にどうソリューションに繋げるかが重要であり、民間企業の仕事でもある。研究開発をしながら産官学連携が必要。

以上、聴講いただいた方からぜひ今回の議論に関係する情報提供をいただけると幸いです。本協議会では定期的にシンポジウムを開催する予定ですが、シンポジウム外でもディスカッションしたいという声があればお問い合わせください。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi