市橋チームリーダーの取材記事が公開されました

研究現場で活躍するフロントランナーを取材する「研究最前線」に、市橋チームリーダーのインタビュー記事が公開されました。
研究への取り組みや今後のビジョンについて詳しく語られています。

クローズアップ科学道2024の記事はこちら:
https://www.riken.jp/pr/closeup/2024/20240716_1/index.html

アシスタント
南部 真夕
Mayu Nanbu

未来の学術研究について考えてみた

今後20~30年頃まで先を見通した学術振興の「グランドビジョン」を示すため、日本学術会議により「未来の学術振興構想(2023年版)」が策定されました。私も中長期研究戦略 No.22「顧みられない未利用種(NUS)の遺伝的改良に基づく持続可能なagro-ecosystemの確立」の作成に関与させていただき、非常に貴重な機会となりました。

提言「未来の学術振興構想(2023年版)」:
https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kenkyukeikaku/kousou23.html

そこで、ここで提案されているグランドビジョンについて考えることで、自身の研究を少し離れた位置で俯瞰的に捉えて、冷静に自身の研究の未来を見つめる良い機会になるのではと思いました。私たちの研究分野は、グランドビジョン4「地球の生命環境と食料供給を持続させるための学術創生」に関係します。今回はこのグランドビジョン4を読んで、私が考えたことについて書いておきたいと思います。

グランドビジョン4には、6つの中長期研究戦略がありました。これらに共通してみられる考えを象徴するキーワードとして、「サステナビリティ」、「調和」、「ワンヘルス」、「IT」、「分野横断」、「階層を超える」がありました。その背景には、現在の細分化された学術分野が指摘されており、今後は統合の方向へ向かっていくことが文脈から読み取れました。その際に必要な能力として、個別の知識量でなく俯瞰的な視野で先入観のなく解釈する能力が求められるだろうと思いました。

一方で「IT」というキーワードがありながら、大規模データ取得の障壁を超えるアイデアや時空間を超えた発想が少なく、抽象度が高めで具体性が低いという印象を受けました。中手世代から大御所世代が中心となって考案されているため、その具体は次世代の若手に求められていると思います。加えて、突飛なアイデアがありながらも、データサイエンスで注目されている生成AI、web3、量子コンピュータについて言及がされていないことから、本分野でのデータサイエンスの応用がまだまだ限定的であり、将来的に伸び代があるトピックスと捉えることもできるかと思います。

もう少し解像度を上げて考えてみたいと思います。今後20~30年後となると、現在20歳の学生が40歳~50歳になる時代になります。デジタルネイチャーであり、SNSなどでの人的ネットワーク構築に抵抗感が比較的少ない世代が中心の世代になります。また日本を含む多くの先進国では、少子高齢化による人手不足で売り手市場となり、学術研究へ進む人口は圧倒的に低くなることは間違いないと思います。さらにモノからコトへの価値観のシフト、資本主義から知識主義へのパラダイムシフトが生じつつあることを併せると、デジタルと自然が究極的に融合していく姿が想起されます。さらに科学が一部の人々が携わる特殊な営みではなく、社会全体へと浸透する形で組み込まれ、そこから出てくる知識が社会へ直接フィードバックすることが求められていくのではないでしょうか。

科学が追求する真理への到達は果てしない旅路です。このことは当事者である科学者にとって当然のことであるものの、その果てしなさについて想いを馳せることは日常においてほとんど無いかと思います。科学の進展により、その真理への到達の果てしなさが明確化されると、物事の全てが科学で明らかにされるという科学至上主義から異なるイデオロギーへの転換の可能性も考えられます。ひょっとすると、人類が宇宙への生存圏を探索することを諦め、完全に知ることができない深遠なる自然の叡智から人類が必要とする情報のみにアクセスする術を学び、足ることを知るといった社会へと回帰するシナリオも十分ありえるかもしれません。

プラネタリーバウンダリーで象徴されるように、物質レベルで人類の転換期が定義される今、科学自体もまたその転換を迫られているように思います。そのため、今後の数十年は、これまでの数十年の変化よりも、より大きく変化する時代となると考えられます。そもそも未来の学術研究について考えようと試みたのですが、私の想像ができる範囲は余裕で超えることが起きるということを考えるようになってしまいました。そんなことをぼんやりと考えてながら、のらくら農場の萩原さんの著書「野菜も人も畑で育つ」を読んでおり、ハッとする言葉がありました。

“分からないまま進む力”

自身の経験や過去の教訓という物差しでは、なかなか価値を測定できるような時代でないからこそ、自身の嗅覚を信じ、分からない状態でも流れに乗ることが大切になると強く感じました。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

ソラマメの寄生植物に対するトランスクリプトームについてPLOS ONE誌に論文が掲載されました

寄生植物(Orobanche foetida)によるソラマメ(Vicia faba)の被害がチュニジアで問題となっています。今回チュニジアの研究者と共同で寄生植物に耐性を持つ系統と持たない系統を使って、寄生植物に感染された条件とされていない条件で、網羅的な遺伝子発現解析をしました。その結果、寄生植物に耐性を持つ系統は、ストリゴラクトン生合成経路の遺伝子発現の調整によって耐性を獲得していることがわかりました。

今回の論文は私にとって特に思い入れがある研究の一つです。第一著者のAmalとは2017年に知り合い、常に研究プロジェクトの進行を相談しながら進めてきました。2021年に寄生植物に関する集団遺伝学で論文を共同で発表しましたが、知り合った当初から着手していた研究が今回のトランスクリプトームの解析になります。着手してから7年もかかった研究です。その間、サンプル輸送の書類手続きから凍結乾燥サンプルを使ったRNA抽出、ノイズが多いデータのインフォマティクス解析、限られた実験環境での実証実験はとても大変でした。オンラインミーティングで何度も相談しました。Amalの博士号がかかった研究で、常にストレスが大きかったと思います。そのような状況でもAmalは諦めずによく頑張りました。忍耐強く常に何か打開策を見出そうとする強い心を持ち、そんな強い研究者と並走できたことは私にとって貴重な体験になりました。

原著論文はこちら:
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0301981


2017年にAmalが日本で実験をしていた頃の写真

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

ヨーロッパ出張で感じたこと

2023年12月10日から17日までムーンショットプロジェクトの用務としてオランダ、ベルギー、ドイツに出張しました。メインのイベントは、13日にベルギーブリュッセルで開催された5th Waseda Brussels Conferenceでの研究発表でした。当日はドイツやフランスからも参加がありました。

こちらがカンファレンスの記事になります:https://www.waseda.jp/inst/brussels-office/news-en/2023/11/23/862/

今回のカンファレンスではGlobal Sustainable Food Supplyがテーマです。このテーマに関連した幅広い分野の研究者の発表を聞くことができ、大変勉強になりました。特にSoy in 1000 gardensというプロジェクトでは、市民科学的アプローチが実施されており、学術研究としての成果はもちろん、大豆の知識や研究の進捗を発信していることには大変感銘を受けました。

Soy in 1000 gardens:https://sojain1000tuinen.sites.vib.be/en

またパネルディスカッションでは国際共同研究や分野横断的な研究プロジェクトはどう進めると良いか、社会実装までどう繋げていくかなどを中心に議論し、またヨーロッパの農業事情についても知ることができたので、とても有意義でした。

ムーンショットプロジェクトでご一緒している理研CSRSの松井南先生(中央)と
今回のヨーロッパ出張全日程に同行していただいた理研欧州事務所の市岡所長(右)

農業デジタルツイン開発について発表しました。

Soy in 1000 gardensを進めるSofie Goormachtig先生とお話しました。
 

カンファレンスの前後に関連分野の大学研究機関にも訪問させていただきました。訪問先は、オランダのWageningen University & ResearchとRadbound Unversity、ドイツのMax Planck Institute of Molecular Plant Physiologyになります。

お互いの研究プロジェクトについて意見交換する中で自分たちが進める研究の国際的な位置付けについてじっくり考えることができました。特に印象的だったのが、意見交換したいずれの組織でも、自身の強みと弱みをしっかり把握した上で、強みを活かす戦略を全面的に押し出しておりました。例えば、Wageningen University & Researchは食と農業に特化して、スタッフは7,600人います。理研が自然科学の総合研究所でスタッフが3,300人、日本で食と農業の研究機関である農研機構でスタッフが3,300人であり、オランダは日本の1/8の人口だと考えると、すごく潔いと思います。事実、Wageningen University & Researchの当該分野での国際的な優位性を考えると、非常にうまく行っていると感じました。またヨーロッパの大学研究機関の建築はサイエンスとアートがうまく融合されており、つい見惚れてしまいました。

Wageningen University & Researchの構内では芸術作品が至る所に飾られております。

Wageningen University & Researchの研究者とランチをご一緒しながらじっくり意見交換しました。

ageningen University & Researchの最先端温室施設を見学させていただきました。

Radbound Unversityの様子

Radbound UnversityのX線自由電子レーザー施設を見学させていただきました。

Max Planck Institute of Molecular Plant Physiologyの
菌根菌研究で有名なCaroline Gutjahrさんと意見交換しました。

Max Planck Institute of Molecular Plant Physiologyに在籍する
日本人研究者の方ともお会いでき、施設を見学させていただきました。

 

今回、理研欧州事務所の市岡所長が全日程をアレンジしていただき、現地でも同行いただき、大変贅沢な機会になりました。おかげさまで、研究についてはもちろん、今後私自身の人生について様々な角度から考える契機となりました。

最終日の夜はドイツポツダムのクリスマスマーケットに立ち寄ることができ、
ヨーロッパのクリスマスを感じることができました。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

農業デジタルツインによるグリーントランスフォーメーションについてアグリバイオ誌2024年1月号に掲載されました

新年明けましておめでとうございます。

2024年1月4日に出版されたアグリバイオ最新号の特集の一つに、私たちの研究活動についてまとめた総説論文が掲載されました。農業分野でのグリーントランスフォーメーション(通称、GX)が期待されるなかで、土壌の炭素貯留ポテンシャルを最大限に引き出す「カーボンファーミング」という農業の考え方に注目が集まっています。私たちはマルチオミクス解析という技術を用いてカーボンファーミングの土台となっている農業生態系システムをマルチオミクスデータから解明する研究を行っております。さらに、農業生態系のダイナミクスに基づいた作物の生育予測などを実現するために、農業デジタルツインという予測システムの開発を行っています。このシステム開発では演繹的なプロセスベースモデルと帰納的な機械学習モデルという2つのアプローチの融合を通じて、有用なモデルの構築と社会実装を目指しています。

アグリバイオ 2024年1月号はこちら:
http://hokuryukan-ns.co.jp/cms/books/アグリバイオ%E3%80%802024年1月号%E3%80%80微生物共生系のデータ/

2024年、多くの関係者への感謝とともに、日々の研究開発に邁進したいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

高校生が見学に来てくれました

我々バイオリソース研究センターでは、不定期に中・高校生の見学を受け付けています。
11月24日には、当センターを訪れてくれた生徒たちに、私たちのチームの研究内容を紹介しました。
その日はチームリーダーが研究の概要を説明し、藤原さんが実際に野外で採取した植物の根の染色と菌根菌の観察を行いました。
また、矢部さんはDropletの技術について説明しました。
私たちの研究を知っていただくことを通じて、将来科学者を志す若者が増えることを願っています。

見学案内はこちら:
https://tsukuba.riken.jp/experience/application/

アシスタント
南部 真夕
Mayu Nanbu

おとなのためのサイエンス講座を開催しました

11月9日、おとなのためのサイエンス講座「未来を拓くライフサイエンスのテクノロジー」「第4回 植物と共生する微生物をみよう」を本チームのメンバーで講師を担当しました。

身近な植物とともに生きる共生微生物について紹介し、農業やSDGsへの活用について考える時間を設けました。また実習として、理研BRCで栽培した植物や野外からの採取した植物を対象に、共生微生物を染色して、顕微鏡で観察しました。受講者の方からは「普段は入ることが出来ない理化学研究所で実験などができ、とてもいい経験になりました。」という有難いお言葉をいただきました。

また私たちにとっても普段研究している内容から、研究者以外の方にも伝わるように工夫する過程で多くを学ぶ貴重な機会となりました。

おとなのためのサイエンス講座について:
https://www.expocenter.or.jp/delivary/detail/id=1609

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

2023年度理研ハッカソンが開催されます

10月24-27日に理化学研究所神戸キャンパスにて、念願のオンサイトで、2023年度理研ハッカソンが開催されます。
本チームが進めるMSプロジェクトメンバーとともに理研ハッカソンの農学セッションを開催する予定です。事前公開シンポジウムではデータ利活用・応用事例紹介として市橋チームリーダーが講演をします。ハッカソンではこれまで取得した土壌生物性データを使って論文化を目指したデータ解析を進めたいと思います。もしハッカソンに参加したい方は下記のサイトからの事前登録に加えて、私までご一報ください。

理研ハッカソンについて:https://www.riken.jp/pr/events/symposia/20231024_1/index.html

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

矢部開発研究員がセンター内カンファレンスで受賞されました!

10月3日に理研バイオリソース研究センターで若手BRCカンファレンス(WBC)が開催されました。本チームの矢部開発研究員が前職での研究成果を中心に今後の研究展開を含めて発表し、小幡特別賞を受賞していただきました。植物微生物共生における新しい展開が期待されております。おめでとうございます!!

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

本チームが進めるプロジェクトの研究成果が受賞されました!

本チームが進める内閣府ムーンショットプロジェクトの研究成果について、北海道大学農学院作物栄養研究室の村島和基さんを筆頭に植物の栄養研究会と植物の栄養研究会で発表し、ポスター賞を受賞していただきました。農学xマルチオミクスxデータ解析で新しい発見が生まれております。村島さんをはじめ多くの方々の努力の賜物です。おめでとうございます!!

植物の栄養研究会 第8回研究交流会 最優秀ポスター賞
植物の栄養研究会2023年度愛媛大会 若手ポスター発表優秀賞

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi