文化と研究が交差する場所で—ベトナム出張報告

10月13日から17日まで、コーヒー研究プロジェクト(植物研究拠点アライアンス プラチナ枠共同研究課題)でベトナム出張に行ってきました。本研究プロジェクトの目標は、ベトナムで多く生産されるロブスタ種の品質向上に資する要因を農業生態系レベルで探索することです。日本とは異なる文化や風景を感じながら、多くの新しい発見と貴重な交流を体験することができました。

10月13日:出発の日
成田空港で藤原さんと合流し、朝食を共にして出発しました。飛行機内では哲学の本を読み進め、隣のベトナム人の方の振る舞いに文化の違いを感じる場面もありました。ホーチミン空港では1時間以上の入国審査を経験。国内線に乗り換え、ChamさんとTaiさんと合流し、夜遅くにプレイク空港に到着。ホテルにチェックインした後、Chamさんたちとチキンライスを楽しみました。異国の地での夜、プロジェクトメンバーと食事をしながら語り合う時間は、とても貴重なものでした。

10月14日:果実サンプリングとコーヒー工場視察
快晴の中、コーヒーの果実サンプリングに向かいました。赤いFerralsolsの土壌が広がる風景と、砂埃の中で暮らす人々の姿が印象的です。ロブスタ種を対象に、オーガニック農園やドリアン混植農園など4つの農園から果実を採取。休憩中、キャッサバ粉でコーティングしたブレッドフルーツはまるでヘルシーなフライドポテトのようで、美味でした。午後からはコーヒーの発酵や乾燥、ローストのプロセスを見学。ロブスタ種とアラビカ種の官能試験では、それぞれの個性を堪能しました。

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10月15日:土壌・根サンプリング
この日も早朝からサンプリングを開始。お昼のスコール前に野外でのサンプリング作業を終え、午後は余裕を持ってサプリングの保存処理をすることができました。夕方には地元のバナール族のレストランで伝統的な料理を楽しみ、地元の風景を散策しながら、異国でのリラックスしたひとときを味わいました。

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10月16日:ホーチミンへ移動
ホーチミンに移動し、忙しない街の熱気を感じる。公園で食べたバインミーはボリューム満点。日中の暑さに疲労を感じつつも、ホーチミンのエネルギーを肌で感じることができました。

10月17日:研究交流と帰国
出張最終日は、NTT Hi-Tech Instituteでセミナーを実施。多くの質問をいただき、議論が尽きることなく続きました。その後、ASTA shrimp companyを見学し、画像解析技術をビジネスに結びつけるアプローチに感銘を受けました。最後には、ベトナムの研究者たちとカフェで議論を深め、フライトの時間ギリギリまで有意義な時間を過ごしました。

今回のベトナム出張を通して、異文化理解と新しい視点を得ることができました。特に、現地の研究者や農園の方々との交流は、これからの研究活動にも大いに役立つと感じています。また、このような機会があれば、ぜひ再訪したいと思います。

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チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

深海微生物の共同研究についてiScience誌に論文が掲載されました

北海道大学の澤辺先生・美野先生・土屋さんの深海微生物を対象にした研究がiScience誌に発表されました。本チームの大熊さんと藤原さんがトランスクリプトームデータの統計解析(エンリッチメント解析やPath分析)でサポートした共同研究になります。土屋さんがデータとともに本チームに合宿し、解析について一緒に議論をしながら進めました。本チームでの研究対象とは異なり、また身近にもなかなか想像しづらい深海微生物の研究に携わることができ、大変貴重な機会をいただきました。今回の研究を通して、異分野連携による多くの気づきをいただきました。

原著論文はこちら:
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(24)02299-5

北大でのプレスリリースはこちら:
https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/11/no-1.html

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

水田生態系デジタル化プロジェクトの紹介記事がNature誌に掲載されました

2024年9月12日付で、Natureオンライン版にKOME-DOKORO COI-NEXT(研究代表:長岡技術科学大学 小笠原渉教授)の研究内容・成果を紹介する記事が掲載されました。本プロジェクトは、新潟の豊かな資源と技術を活用して「コメどころ新潟を将来に」引き継ぎ、地域資源完全循環型バイオコミュニティを実現させることを目指しています。
本チームでは水田生態系のデジタル化を担当しており、新潟県内の農家や研究機関と協力しながら、多様な農法における水田土壌の状態(化学性、微生物叢)と作物の状態(生育、収量、品質)の網羅的なデータ収集を進めています。構築したビッグデータによりこれまで農家の経験に基づいてきた匠の技の土づくりをマニュアル化し、学術的エビデンスに基づく持続可能な稲作の提案と普及につながることを目指しています。

本チーム担当課題記事URL:
https://www.nature.com/articles/d42473-024-00145-9

特集トップページURL:
https://www.nature.com/collections/didjeejhea

長岡COI-NEXTのプロジェクトwebページURL:
https://coi-next.nagaokaut.ac.jp

開発研究員
山﨑 真一
Shinichi Yamazaki

土壌揮発性有機化合物についてScientific Reports誌に論文が掲載されました

ダイズ圃場の土壌揮発性有機化合物(VOC)のプロファイルを3年間にわたって分析し、土壌の状態の評価指標としての可能性を検討しました。その結果、土壌VOCプロファイルは土壌関連の網羅的なデータセットと強い相関を示し、有効な評価指標になりうることが分かりました。

今回の論文発表は、私たちのチーム設立から主導してきた農業生態系のデジタル化に関する国家プロジェクト(内閣府SIP;内閣府ムーンショット)の研究成果になり、チームにとって特別です。これまでにない規模で圃場試験を進めて、プロジェクトメンバー総出でビッグデータを取得しており、本成果を皮切りに多くの研究成果を出す予定です。今回はその中で、草野先生を中心とした筑波大学メンバーが進めた土壌VOCプロファイルについて発表しました。特に筑波大学の朽方さんと佐野さんがものすごい数の土壌サンプルを分析し、本チームの藤原さんがオミクスデータとの関連解析で活躍しました。今回の研究を通して、若手研究者の成長を間近で感じることができ、私にとってとても良い経験となりました。

プレスリリースはこちら:
https://www.riken.jp/press/2024/20240918_2/index.html

原著論文はこちら:
https://www.nature.com/articles/s41598-024-70873-x

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

市橋チームリーダーの取材記事が公開されました

研究現場で活躍するフロントランナーを取材する「研究最前線」に、市橋チームリーダーのインタビュー記事が公開されました。
研究への取り組みや今後のビジョンについて詳しく語られています。

クローズアップ科学道2024の記事はこちら:
https://www.riken.jp/pr/closeup/2024/20240716_1/index.html

アシスタント
南部 真夕
Mayu Nanbu

未来の学術研究について考えてみた

今後20~30年頃まで先を見通した学術振興の「グランドビジョン」を示すため、日本学術会議により「未来の学術振興構想(2023年版)」が策定されました。私も中長期研究戦略 No.22「顧みられない未利用種(NUS)の遺伝的改良に基づく持続可能なagro-ecosystemの確立」の作成に関与させていただき、非常に貴重な機会となりました。

提言「未来の学術振興構想(2023年版)」:
https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kenkyukeikaku/kousou23.html

そこで、ここで提案されているグランドビジョンについて考えることで、自身の研究を少し離れた位置で俯瞰的に捉えて、冷静に自身の研究の未来を見つめる良い機会になるのではと思いました。私たちの研究分野は、グランドビジョン4「地球の生命環境と食料供給を持続させるための学術創生」に関係します。今回はこのグランドビジョン4を読んで、私が考えたことについて書いておきたいと思います。

グランドビジョン4には、6つの中長期研究戦略がありました。これらに共通してみられる考えを象徴するキーワードとして、「サステナビリティ」、「調和」、「ワンヘルス」、「IT」、「分野横断」、「階層を超える」がありました。その背景には、現在の細分化された学術分野が指摘されており、今後は統合の方向へ向かっていくことが文脈から読み取れました。その際に必要な能力として、個別の知識量でなく俯瞰的な視野で先入観のなく解釈する能力が求められるだろうと思いました。

一方で「IT」というキーワードがありながら、大規模データ取得の障壁を超えるアイデアや時空間を超えた発想が少なく、抽象度が高めで具体性が低いという印象を受けました。中手世代から大御所世代が中心となって考案されているため、その具体は次世代の若手に求められていると思います。加えて、突飛なアイデアがありながらも、データサイエンスで注目されている生成AI、web3、量子コンピュータについて言及がされていないことから、本分野でのデータサイエンスの応用がまだまだ限定的であり、将来的に伸び代があるトピックスと捉えることもできるかと思います。

もう少し解像度を上げて考えてみたいと思います。今後20~30年後となると、現在20歳の学生が40歳~50歳になる時代になります。デジタルネイチャーであり、SNSなどでの人的ネットワーク構築に抵抗感が比較的少ない世代が中心の世代になります。また日本を含む多くの先進国では、少子高齢化による人手不足で売り手市場となり、学術研究へ進む人口は圧倒的に低くなることは間違いないと思います。さらにモノからコトへの価値観のシフト、資本主義から知識主義へのパラダイムシフトが生じつつあることを併せると、デジタルと自然が究極的に融合していく姿が想起されます。さらに科学が一部の人々が携わる特殊な営みではなく、社会全体へと浸透する形で組み込まれ、そこから出てくる知識が社会へ直接フィードバックすることが求められていくのではないでしょうか。

科学が追求する真理への到達は果てしない旅路です。このことは当事者である科学者にとって当然のことであるものの、その果てしなさについて想いを馳せることは日常においてほとんど無いかと思います。科学の進展により、その真理への到達の果てしなさが明確化されると、物事の全てが科学で明らかにされるという科学至上主義から異なるイデオロギーへの転換の可能性も考えられます。ひょっとすると、人類が宇宙への生存圏を探索することを諦め、完全に知ることができない深遠なる自然の叡智から人類が必要とする情報のみにアクセスする術を学び、足ることを知るといった社会へと回帰するシナリオも十分ありえるかもしれません。

プラネタリーバウンダリーで象徴されるように、物質レベルで人類の転換期が定義される今、科学自体もまたその転換を迫られているように思います。そのため、今後の数十年は、これまでの数十年の変化よりも、より大きく変化する時代となると考えられます。そもそも未来の学術研究について考えようと試みたのですが、私の想像ができる範囲は余裕で超えることが起きるということを考えるようになってしまいました。そんなことをぼんやりと考えてながら、のらくら農場の萩原さんの著書「野菜も人も畑で育つ」を読んでおり、ハッとする言葉がありました。

“分からないまま進む力”

自身の経験や過去の教訓という物差しでは、なかなか価値を測定できるような時代でないからこそ、自身の嗅覚を信じ、分からない状態でも流れに乗ることが大切になると強く感じました。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

ソラマメの寄生植物に対するトランスクリプトームについてPLOS ONE誌に論文が掲載されました

寄生植物(Orobanche foetida)によるソラマメ(Vicia faba)の被害がチュニジアで問題となっています。今回チュニジアの研究者と共同で寄生植物に耐性を持つ系統と持たない系統を使って、寄生植物に感染された条件とされていない条件で、網羅的な遺伝子発現解析をしました。その結果、寄生植物に耐性を持つ系統は、ストリゴラクトン生合成経路の遺伝子発現の調整によって耐性を獲得していることがわかりました。

今回の論文は私にとって特に思い入れがある研究の一つです。第一著者のAmalとは2017年に知り合い、常に研究プロジェクトの進行を相談しながら進めてきました。2021年に寄生植物に関する集団遺伝学で論文を共同で発表しましたが、知り合った当初から着手していた研究が今回のトランスクリプトームの解析になります。着手してから7年もかかった研究です。その間、サンプル輸送の書類手続きから凍結乾燥サンプルを使ったRNA抽出、ノイズが多いデータのインフォマティクス解析、限られた実験環境での実証実験はとても大変でした。オンラインミーティングで何度も相談しました。Amalの博士号がかかった研究で、常にストレスが大きかったと思います。そのような状況でもAmalは諦めずによく頑張りました。忍耐強く常に何か打開策を見出そうとする強い心を持ち、そんな強い研究者と並走できたことは私にとって貴重な体験になりました。

原著論文はこちら:
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0301981


2017年にAmalが日本で実験をしていた頃の写真

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

ヨーロッパ出張で感じたこと

2023年12月10日から17日までムーンショットプロジェクトの用務としてオランダ、ベルギー、ドイツに出張しました。メインのイベントは、13日にベルギーブリュッセルで開催された5th Waseda Brussels Conferenceでの研究発表でした。当日はドイツやフランスからも参加がありました。

こちらがカンファレンスの記事になります:https://www.waseda.jp/inst/brussels-office/news-en/2023/11/23/862/

今回のカンファレンスではGlobal Sustainable Food Supplyがテーマです。このテーマに関連した幅広い分野の研究者の発表を聞くことができ、大変勉強になりました。特にSoy in 1000 gardensというプロジェクトでは、市民科学的アプローチが実施されており、学術研究としての成果はもちろん、大豆の知識や研究の進捗を発信していることには大変感銘を受けました。

Soy in 1000 gardens:https://sojain1000tuinen.sites.vib.be/en

またパネルディスカッションでは国際共同研究や分野横断的な研究プロジェクトはどう進めると良いか、社会実装までどう繋げていくかなどを中心に議論し、またヨーロッパの農業事情についても知ることができたので、とても有意義でした。

ムーンショットプロジェクトでご一緒している理研CSRSの松井南先生(中央)と
今回のヨーロッパ出張全日程に同行していただいた理研欧州事務所の市岡所長(右)

農業デジタルツイン開発について発表しました。

Soy in 1000 gardensを進めるSofie Goormachtig先生とお話しました。
 

カンファレンスの前後に関連分野の大学研究機関にも訪問させていただきました。訪問先は、オランダのWageningen University & ResearchとRadbound Unversity、ドイツのMax Planck Institute of Molecular Plant Physiologyになります。

お互いの研究プロジェクトについて意見交換する中で自分たちが進める研究の国際的な位置付けについてじっくり考えることができました。特に印象的だったのが、意見交換したいずれの組織でも、自身の強みと弱みをしっかり把握した上で、強みを活かす戦略を全面的に押し出しておりました。例えば、Wageningen University & Researchは食と農業に特化して、スタッフは7,600人います。理研が自然科学の総合研究所でスタッフが3,300人、日本で食と農業の研究機関である農研機構でスタッフが3,300人であり、オランダは日本の1/8の人口だと考えると、すごく潔いと思います。事実、Wageningen University & Researchの当該分野での国際的な優位性を考えると、非常にうまく行っていると感じました。またヨーロッパの大学研究機関の建築はサイエンスとアートがうまく融合されており、つい見惚れてしまいました。

Wageningen University & Researchの構内では芸術作品が至る所に飾られております。

Wageningen University & Researchの研究者とランチをご一緒しながらじっくり意見交換しました。

ageningen University & Researchの最先端温室施設を見学させていただきました。

Radbound Unversityの様子

Radbound UnversityのX線自由電子レーザー施設を見学させていただきました。

Max Planck Institute of Molecular Plant Physiologyの
菌根菌研究で有名なCaroline Gutjahrさんと意見交換しました。

Max Planck Institute of Molecular Plant Physiologyに在籍する
日本人研究者の方ともお会いでき、施設を見学させていただきました。

 

今回、理研欧州事務所の市岡所長が全日程をアレンジしていただき、現地でも同行いただき、大変贅沢な機会になりました。おかげさまで、研究についてはもちろん、今後私自身の人生について様々な角度から考える契機となりました。

最終日の夜はドイツポツダムのクリスマスマーケットに立ち寄ることができ、
ヨーロッパのクリスマスを感じることができました。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

農業デジタルツインによるグリーントランスフォーメーションについてアグリバイオ誌2024年1月号に掲載されました

新年明けましておめでとうございます。

2024年1月4日に出版されたアグリバイオ最新号の特集の一つに、私たちの研究活動についてまとめた総説論文が掲載されました。農業分野でのグリーントランスフォーメーション(通称、GX)が期待されるなかで、土壌の炭素貯留ポテンシャルを最大限に引き出す「カーボンファーミング」という農業の考え方に注目が集まっています。私たちはマルチオミクス解析という技術を用いてカーボンファーミングの土台となっている農業生態系システムをマルチオミクスデータから解明する研究を行っております。さらに、農業生態系のダイナミクスに基づいた作物の生育予測などを実現するために、農業デジタルツインという予測システムの開発を行っています。このシステム開発では演繹的なプロセスベースモデルと帰納的な機械学習モデルという2つのアプローチの融合を通じて、有用なモデルの構築と社会実装を目指しています。

アグリバイオ 2024年1月号はこちら:
http://hokuryukan-ns.co.jp/cms/books/アグリバイオ%E3%80%802024年1月号%E3%80%80微生物共生系のデータ/

2024年、多くの関係者への感謝とともに、日々の研究開発に邁進したいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

チームリーダー
市橋 泰範
Yasunori Ichihashi

高校生が見学に来てくれました

我々バイオリソース研究センターでは、不定期に中・高校生の見学を受け付けています。
11月24日には、当センターを訪れてくれた生徒たちに、私たちのチームの研究内容を紹介しました。
その日はチームリーダーが研究の概要を説明し、藤原さんが実際に野外で採取した植物の根の染色と菌根菌の観察を行いました。
また、矢部さんはDropletの技術について説明しました。
私たちの研究を知っていただくことを通じて、将来科学者を志す若者が増えることを願っています。

見学案内はこちら:
https://tsukuba.riken.jp/experience/application/

アシスタント
南部 真夕
Mayu Nanbu